2020/09/14 23:36

タカサブロウというキク科の草があります。

昔、筆や墨を買えなかった貧しい高三郎がこの草で字を書いたという逸話から名がついたそうです。茎を折るとそこが黒ずむので、他にも墨草・墨菜・墨斗草・墨汁草・墨水草などの別名があります。
これはぜひ試してみなくてはと五年前にトライして墨色が出ず、うっすらと草色の線が滲むばかりでした。三年前に、あれはアメリカタカサブロウで、在来のモトタカサブロウなら逸話通り書けるのではないかと大いに期待して採集に出かけました。そして、草画にチャレンジ。



何度も何度も擦るようにして描いた絵です。茎は確かに黒ずみますが、黒い色は出ません。淡い草色がつくだけ。結果としては日米のタカサブロウの筆力に差はありませんでした。それでも草だけで描けるというのはすばらしい。究極の草筆です。

あれから三年、散歩の道端にひょっこりアメリカタカサブロウを見つけて摘んで帰りました。翌日、草画の筆に採用。まず一枚は草だけで「艸」という字を書こうとしたところ、まったく色が乗りません。折り取った現場ですぐに書くなら黒く出るのでしようか、持ち帰ったり、一日置いたりしたらもう駄目のようです。今回は墨を付けて描くつもり。



高三郎さんの使ったタカサブロウ、
弘法大師の使ったコウボウムギ、
こどもたちが戯れたオキナグサ、
土筆や木筆と名のある草木たち。
みんな好きです。
そんな文化のこぼれ種(逸話)が好きです。
こぼれ種から育まれる精神がすきです。



筆と楽器。
高三郎は楽器を買えなくても、草笛を吹いたでしょう。
麦笛、笹笛、たんぽぽ笛…。
鼓草、三味線草、琴柱草…。




この日は敬愛する詩人・山之口貘さんの生誕日。
それで高三郎で重三郎(貘さんの本名)さんに因んだ絵を。
但し、獏の絵は使用した「蒼玄」という墨で直接描いたものです。